阪急うめだ本店で開催していた「セッセ コンテンポラリー刺しゅう展」が無事終了しました。
ご来場していただいた皆さま、誠にありがとうございました。
普段はギャラリーでの展示が主なので、百貨店での展示はギャラリーとはまた違う雰囲気で楽しかったですし、新しい出会いや発見があり、勉強にもなりました。
今回の展示は刺しゅう作家の展覧会だったので、特に刺しゅうについて訊ねられることが多かったです。
今まであまり説明してこなかったので、今回は刺しゅうについて書こうと思います。
*刺しゅうで描くきっかけ
私は刺しゅうで作品を制作していますが、刺しゅうをしていると言うよりは、糸やファブリックを使って絵を描いている、という感覚です。
もともと大学でイラストレーションを学んでいて、絵の具や色鉛筆などを使って作品を作っていました。
糸を初めて使ったのは、大学で色々な画材を混ぜて使う、という課題が出た時です。
普段使っている画材とは違う物は無いかなと探した結果、裁縫道具が目に付き、試しに使ってみたのがきっかけでした。
針と糸を使い慣れていないせいもあって、ペンや筆のように思い通りに線が描けず、でもその自分のコントロールが完全に行き届かない、少し不自由なところが面白いと思いました。
それから少しずつ絵に刺しゅうを取り入れていきました。
刺しゅうについては、ロング&ショートステッチだけは本を見てなんとなく理解しましたが、
他のステッチは未だによく分かっていません。
「刺しゅうは独学です」と言うのもはばかられるくらい、好き勝手に刺しています。
絵に刺しゅうを取り入れていったので、今でも糸も布も、画材の一つだと思っています。
色が混ぜられない点で、感覚的には色鉛筆に近いかなと感じています。
人とは違う方法を!と思っていたことも大きいです。
自分の絵柄が特別個性的とは思えなかったので、何か人とは違うような、
人と人の間にある狭い隙間のような場所を見つけられないかと探った結果に見つけた場所が今のような刺しゅうでした。
でも、刺しゅうで描いている作家もたくさんいるし、その中でどう隙間を見つけるかは今でも大きな課題です。
*糸について
作品には市販の糸を使っています。
土台の生地は白い布にアクリル絵の具で色をつけることが多いですが、糸は完全に既製品です。
糸も自分で染めたら良いのに、と指摘されることもありますが、染めは時間と手間がかかりすぎるのと同時に、既製品を使い続けるのには他にも大きな理由があります。
私の作品は今はかなりカラフルで、現実ではありえない色合いをしていますが、絵の具で描いていたころは割りと現実の色味と同じ色合いで描いていました。
今のような色を使うのは、糸を使っているからです。
刺しゅう糸はかなりの色数がありますが、混色ができないので、やはり絵を描くには少ないです。
その限られた色数で作品を作るとなると、色味にこだわっていると使える色の幅が狭く、色んなものを描ききれないことに気がつきました。
色味にこだわらず、色の明暗や鮮やかさで変化をつけるしかないのです。
それで、現実に見える色に縛られず、自由な色で描くようになりました。
絵の具のように色を自由に作れる状態よりも、糸のように限られた範囲の中で考える方が、より自由な色を使えること、
自分にはこの、縛る条件がある状態の方が合っている、と分かりました。
なので、既製の糸を使い続けています。
きっと、自分の好きな色に糸を染めるようになったら、今の色は使えなくなると思います。
*ファブリックについて
刺しゅうの下に、先に柄ものの布を貼っていることが多いです。
上で書いたように、私が刺しゅうで描くのは、縛りを付け、コントロールの行き届かない、少し不自由な状態になるためですが、ファブリックを使うのも、同じような理由です。
例えば黄色い花を描くときに、黄色の布を貼り付けますが、黄色の柄もの布には、黄色以外の青や赤の部分もあります。
「主な色は黄色」という布を貼りますが、そこには自分の意図しない色がたくさん含まれます。
その意図せず含まれた色によって、全体の色のバランスを考えないといけないので、
そこでも少しの縛りと不自由さが生まれます。
また、柄ものの布を混ぜることで、糸だけでは作れない複雑な模様や色を作ることもできます。
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単純に、縫うのが楽しかったり素材が可愛いくて好きだったり、という理由もありますが、
刺しゅうで描く最大の理由は、そういう不自由さです。
条件の縛りがある方がより自由になれる、というのは私にとって一番大きな発見でした。
今の色使いはがあるのは糸を使っているからで、
私自身、今の自分の色を気に入っているので、これが気に入らなくなるまでは糸で描き続けます。
というわけで、今後も縫い続けていくと思いますので、ご覧になっていただけましたら幸いです。
今後ともよろしくお願いします!